2010年11月6日土曜日

阻止できるか「日本化」 超金融緩和 FRBと日銀(上)

2010/11/5 4:00
日本経済新聞 朝刊

 

米連邦準備理事会(FRB)が3日、追加金融緩和に踏み切った。露呈したのはリーマン・ショックから2年たっても独り立ちできない米経済の現実だ。日銀は4~5日の金融政策決定会合で資産買い取りの具体策を決める。日米ともに超金融緩和が続く見通しで、巨大マネーによるひずみが世界中で膨らんでいる。

 FRBの追加緩和の狙いは、市場を通じた景気の押し上げだ。株高で家計の資産価値が増えれば消費を促す。ドル安は企業の輸出を後押しする。金利の低下は住宅の購入や企業の設備投資を支える。「今日の措置は今後数年間、国内総生産(GDP)を年0.5ポイント押し上げるだろう」。米ゴールドマン・サックスのエコノミストは投資家向けの説明会で強調した。

 バーナンキFRB議長が講演で追加緩和を示唆したのは8月27日。市場はその後、議長の思惑通りに動いた。実体経済にも効果を上げるか、正念場にある。

遅れる景気回復

 昨年3月、FRBは量的緩和に乗り出し、米景気は同6月に底入れした。それでも量的緩和の第2弾を放たざるを得なかった理由は、声明文が示している。「(景気の回復は)失望するほど遅い」と。

 7~9月期の成長率は年率2%。雇用を確保し、デフレを避けるために必要とされる3%を大きく下回る。家計が歴史的な水準に膨らんだ負債の削減に追われ、GDPの7割を担う消費が伸び悩んでいるからだ。

 消費の低迷は企業に雇用を手控えさせ、消費の低迷に拍車をかける。悪循環の中で失業率は10%近くで高止まりし、デフレに陥る「日本化」の懸念も強まった。

 曲がりなりにも景気回復が続いているのに量的緩和を追加するなど、米国では前代未聞だ。市場には副作用への懸念も渦巻いている。マネーの暴走が制御不能のインフレを生まないか、米国債の購入は財政規律を損なわないか、ドルは信認を失わないか――。

 金融政策の限界に気付いているのは、当のバーナンキ議長にほかならない。「中央銀行だけでは経済問題を解決できない」。追加緩和を示唆した8月の講演では、冒頭でクギを刺している。

 だが中間選挙で与党・民主党が大敗し、政府は財政政策の手足を縛られた。オバマ大統領は「国民の懸念は財政赤字や支出にある」と敗因分析しており、9月に打ち上げた景気刺激策の行方は揺らぎ始めた。議会が政治的駆け引きに時間を消耗して政策が滞れば、ますます金融政策頼みは強まる。FRBは第3、第4の緩和を迫られ、副作用の芽は膨らむばかりだ。

膨らむひずみ

 しわ寄せは世界に広がる。6000億ドルというFRBの購入額は、月にならせば米国債発行額の4割に相当する。FRBが供給する大量のマネーは高利回りを求めてグローバル市場を駆け巡る。

 住宅など資産価格が上昇する新興国へマネー流入が加速すれば、バブルはさらに膨らみ、崩壊のリスクが高まる。ほころびが瞬く間に世界に波及するのはギリシャ危機の教訓だ。デフレに悩む先進国とインフレ懸念に悩む新興国――。二極化する世界経済のはざまで奔走するマネーの波乱をどう抑えるか。11~12日の20カ国・地域(G20)首脳会議の焦点だ。

 昨年末には「景気回復でFRBは2010年末に利上げする」との見方もあったが、回復力の鈍さはFRBにとって誤算だった。いまや多少の副作用に目をつぶってでも「日本化」阻止に動かざるを得なくなっている。

(米州総局編集委員 梶原誠)

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